高次脳機能障害の等級について

高次脳機能障害の等級が問題となった事案ですが、損害保険料率算出機構が事前認定において12級13号と評価しましたが、その後、裁判所が5級2号と認定した事例(東京地裁判例平成24年12月18日)を紹介します。

裁判所の認定した損害額は約1億3000万円です。12級13号であれば損害額は治療費を控除すれば1000万円程度以下にとどまっていたであろうことを考えると、事前認定に添付した医証の内容等事案によりますが、損害保険料率算出機構が事前認定の結果については精査する必要がありそうです。

この事案では、原告は、頭部外傷,頚椎捻挫,全身打撲,頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の傷害を負いました。事前認定での判断が低い等級にとどまったことを被害者が不服として裁判に移行し、上記判例の事案のように裁判でより上位等級が認定されることがあります。例えば、岡山地裁判例平成21年4月30日
では、自賠責調査事務所が非該当としたものが、裁判所は9級10号と認定しています。
東京地裁判例平成20年1月24日では、自賠責調査事務所において高次脳機能障害は5級2号と認定されましたが、裁判所は労働能力喪失率100%を認めています。

逆に、自賠責保険における認定が訴訟により低くなる事案もあります。
これは、自賠責保険においては書面審査という制約条件がある一方で、裁判所は当事者から提出された多様な証拠から個別具体的に判断することが可能であるという制度上の制約条件が原因の一つであると思われます。自賠責保険における判断は、ほとんどの場合、熟練した職員の方が的確に判断されており、尊重すべきであると思います。まれに、事前認定の際に提出された医証に不足が有った場合等判断資料の制約が影響したためか、実体を反映しきれていない等級が認定される場合があるということです。

本裁判例において裁判所は本件被害者の意識障害の程度は,改訂自賠責調査基準で示された意識障害の水準には達しないものであるとしながらも、本件被害者の障害について実質的に考察して、同基準は,高次脳機能障害の判定基準そのものではなく,同基準においても,重度の意識障害が6時間以上継続したこと若しくは健忘又は軽度意識障害が1週間以上継続したことは,脳外傷による高次脳機能障害を疑うべき症例の指標の一つにすぎないものと位置づけられている。

また,受傷直後の意識障害が軽度であった事例においても,1年後に中程度の障害が残存した例は19パーセントあるとの調査結果がある。これらの事実を考慮すると,原告にみられた意識障害が重度のものではなく,かつ,1週間以上継続するものでなかったとしても,そのことをもって,原告が本件事故により高次脳機能障害の原因となる脳外傷を負わなかったということはできないと判断しています。

このように高次脳機能障害の原因となる脳外傷を負わなかったと言えないとした上で、さらに、裁判所はCTやMRI検査の画像所見を検討して「原告の脳実質は,本件事故により広範囲にわたって損傷を受けたものと推認される。以上の事実は,原告が本件事故によりびまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆するものである。」と判断しております。

そして、「原告には,本件事故による受傷当初から,記憶障害等の高次脳機能障害に特徴的な症状が現れていたと認められ,本件事故により,原告の脳実質が広範囲にわたって損傷を受け,びまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆する画像所見等が存在するとともに,本件事故後に原告の認知能力が標準を下回る水準にあることを示す神経心理学的検査の結果が存在し,原告を診察した複数の医師が原告に高次脳機能障害が残存しているとの見解を示していることを総合考慮すると,原告には,典型的な症例でみられるほどの明確な客観的所見を伴うものではないものの,本件事故による脳損傷を原因として高次脳機能障害が残存したと認められる。」として、本件被害者について5級2号を認定しております。

びまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷は、明確な脳組織の挫滅(脳挫傷)や血腫がないので、画像では明らかでなく、ストレートに高次脳機能障害とそれらの発症を認定することは困難ですが、他方で一定の意識障害があったことから、それらの発症を推定することが可能な場合があり、受傷当初から記憶障害等の高次脳機能障害に特徴的な症状が認められ、その症状と理学的検査の結果が整合している等の事実を総合して高次脳機能障害を認めることがあるといえます。

(以下上記裁判例を引用)       2 争点(2)(本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無又は程度)について   (1) 事実経過     前記前提となる事実等のほか,証拠(認定に用いた証拠等は括弧内に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以 下の事実経過を認めることができる。    ア 本件事故前における原告の生活歴等(甲1,7,32,43,44)       原告は,昭和53年○月○日生の男性で,高校に進学したが1年生のときに退学し,その後は実家を出て独り暮 らしをしながら(ただし,本件事故当時は友人と同居していた。)大工として稼働していた。      原告は,本件事故前は,自動二輪車での外出や祭りを好み,交友関係は比較的広く,格闘技のテレビ番組を好ん で視聴し,小説を読むこともあった。原告が本件事故前に精神科を受診したことはない。      原告は,平成17年6月ころにD(平成元年○月○○日生。当時高校2年生)と交際するようになり,平成18年10 月ころにDの妊娠が判明した。    イ 本件事故による受傷から佐々総合病院を退院するまでの経過     (ア) 意識障害(甲8,16・第8,48,52,73~74丁,20の1,23・16頁)       原告は,本件事故の発生から約26分が経過した平成18年11月18日午前8時36分ころ,佐々総合病院に救 急搬送された。原告には,意識はあったが,事故の記憶がないなどの健忘の症状がみられ(JCS:Ⅰ-3,GC S:14点),翌19日においても,意識が完全には清明でない状態(JCS:Ⅰ-1)が継続していた。       原告の意識は,同月20日までには清明となった。     (イ) 入院中における原告の言動(甲16・第4~54,93~97丁,45,証人D)       原告は,平成18年11月18日から同年12月2日までの間,佐々総合病院に入院した。       その間,原告は,ふらつきながらも歩行することができ,医師や看護師に対し,受傷部位の痛み,吐き気やめま い等を訴え,面会に訪れたDに対しては,尿意を伝えるなどしていた。ただし,発語は緩慢で,会話に際して口に する単語は1語程度であった。       原告は,同年11月25日,洗面台でシャンプーを使って洗髪しようとして,看護助手から浴室で洗髪するように促 されたり(甲16・第50丁),同月28日には,MRI検査の問診票にある「体内に金属や器具類があるか」との問い に対して,「右肩にボルトがあるけどいつか消えるって言ってました。7年前。」と記載したりした(甲16・第93 丁)。    ウ 退院後の原告の状況     (ア) 退院してから婚姻するまでの間の状況(甲16・第77~79丁,18・第1~3丁,43,44,証人E)       原告は,佐々総合病院を退院した後は東京都世田谷区内の実家に戻り,平成19年3月ころまでの間,実家で両 親及び妹と同居して生活した。       原告は,その間の平成18年12月5日,同月15日,平成19年1月19日,同年2月23日,同年3月23日の各 日に佐々総合病院に通院し,同年2月6日,同月22日,同年3月6日の各日に東京女子医科大学病院に通院し た。原告の母E(以下「E」という。)は,原告の通院に1,2回付き添ったが,それ以外の通院の際は,原告が,Eら 家族が呼んだタクシーを使って一人で通院していた。       原告は,佐々総合病院において,同年1月19日に診察を受けた際,Dが妊娠したこと及び出産予定日が6月で あることを述べ,同年3月23日に診察を受けた際,結婚を機に狭山に引っ越す旨述べた。     (イ) 婚姻後の状況(甲7,16・第79~85丁,18・第3~6,19~45丁,32,43,原告本人,証人D)      a 原告は,平成19年3月27日,Dと婚姻し,同年4月ころ,Dが賃借する東京都三鷹市内の現住居に転居し,D との同居を開始した。        同年6月7日,原告とDとの間に第一子が生まれた。        Dは,第一子の出産を終えるまでは原告の通院に付き添うことができる状態ではなかったため,それまでの 間,原告は,Dが呼んだタクシーを使って一人で佐々総合病院と東京女子医科大学病院への通院を継続した。 その後,出産後約2か月が経過した同年8月ころからは,Dが原告の通院に付き添い,原告の状態を医師に説 明するようになった。佐々総合病院の診療録の同月3日欄(甲16・第84丁)に「忘れっぽい。集中力がない。」と 記載されているのは,原告の通院に付き添ったDがA医師に対して原告の状態を説明したことによるものであ る。その後,平成21年11月,原告とDとの間に第二子が生まれた。        原告は,リハビリテーションのため,平成24年7月から,知人が営む埼玉県和光市内の総菜店において皿洗い 等を手伝うようになった。原告は,自宅と同店との間を行き来する際,自宅と最寄りの駅との間は,Dから教えら れた経路に従って自転車で移動し,同駅と同店との間は,上記知人が運転する自動車で移動している。      b 婚姻後における原告の言動等の状況は,おおむね次のとおりである。       (a) 発語が緩慢で,通常の速度の会話に対応することができない。発語や理解の能力は入院中よりも改善され たが,同じやりとりを繰り返さないと意思疎通ができないこともある。       (b) 食事をしたことを忘れる。物をよくなくす。Dと買い物に行っても買おうとしていたものを思い出せない。備忘 のためにメモを利用することができない。         一人で外出して帰宅できなくなったことが何度かあった。乗り換えの手順等が覚えられないため,公共交通機 関を一人で利用することはできない。       (c) 些細なことで怒る。記憶を質そうとしたDとの間で口論となることがしばしばあった。外出先でも不快感や怒 りを表出する。友人が来訪しても,関心を示さなくなった。         格闘技のテレビ番組を見なくなり,小説を読まなくなった。       (d) 復職への意欲を示すが,普段は疲れた様子で横になっていることが多い。     (ウ) 本人尋問における原告の言動(原告本人)       原告は,当裁判所における本人尋問において,原告車で通勤する途中に被告車が割り込んできて本件事故が発 生したこと,本件事故の前に右肩にボルトを入れていたが,現在は消えてなくなっていること,従前は大工をして おり,仕事は楽しかったこと,記憶力,計算力,大工としての技術に問題はなく,めまいさえなくなれば問題なく復 職できると考えていること,近時はリハビリのため知人が営む埼玉県和光市内のだんご屋に通い,指示に従って 洗い物や炊飯をしていること,その際,自宅から最寄りの駅までは自転車で移動し,最寄りの駅と店との間は知 人の運転する車で送迎してもらっていること,だんご屋で働く以外の時間は,主にDと2人の子と一緒に自宅から 徒歩3分程度のところにある公園に出かけて遊んでおり,一人で外出することはほとんどないこと等を供述した。      原告の発語は緩慢であり,個々の供述は,おおむね1語の主語又は目的語と動詞のみで構成されている。ま た,原告は,尋問当日の暦年を平成18年と供述し,Dの年齢は分からないと述べ,妹については,実際には婚姻 しているにもかかわらず(証人E),婚姻していないと供述した。    エ 画像所見     (ア) 頭部X線検査の画像(甲22の1,乙2)       平成18年11月18日に佐々総合病院で行われた頭部X線検査において,右側頭部に線状骨折が認められた。     (イ) 頭部CT検査の画像      a 平成18年11月18日に佐々総合病院で撮影された画像(甲22の1,40の1の①,乙2)        左側頭葉の先端部に出血を疑わせる部分が認められるが,それ以外に外傷による脳損傷を疑わせる明確な 所見は認められなかった。      b 平成20年1月31日に木沢記念病院で撮影された画像(甲22の1,40の2,乙2)        左側頭葉先端部に,脳挫傷痕及び脳萎縮が認められた。      c 平成21年7月14日に佐々総合病院で撮影された画像(甲22の1,40の1の(24))        上記aの平成18年11月18日の画像と比較して,軽度の脳室拡大が認められる。     (ウ) 頭部MRI検査の画像      a 平成18年11月27日に佐々総合病院で撮影された画像(甲22の1,40の1の⑦~⑪,乙2)        左前頭葉底部外側及び左側頭葉先端部にそれぞれ2センチメートル大の脳挫傷痕が認められた。      b 平成19年4月20日に佐々総合病院で撮影された画像(甲22の1,40の1の⑳~(23),乙2)        左側頭葉先端部に脳挫傷痕が認められた。また,上記aの平成18年11月27日の画像と比較して,軽度の脳 室拡大が認められた。     (エ) PET,SPECTの画像(甲19・第8~13丁,22)       平成20年2月1日に木沢記念病院で行われたPETにおいては,右視床,両側小脳半球における局所糖代謝低 下が認められた。両側小脳半球における糖代謝の低下部位は広範囲にわたっていた。       また,同日,同病院で行われたSPECTにおいては,左前頭葉底部,両側前頭前野内側面,両側小脳半球など で脳血流の低下が認められた。    オ 神経心理学的検査の結果(甲19,27)      平成20年1月31日及び同年2月1日,木沢記念病院において原告に対する神経心理学的検査が行われた。こ のうち,長谷川式簡易知能評価の結果は18/30(該当年齢平均30点),WAIS-Ⅲの結果は全検査IQ:58(該 当年齢平均100),言語性IQ:61,動作性IQ:61であった。   (2) 高次脳機能障害についての医学的知見     後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,高次脳機能障害について,次のような医学的知見を認めることができる。    ア 平成23年報告書(甲23)      損害保険料率算出機構は,脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定について,脳神経外科,精神神経科等 の専門医や医療ソーシャルワーカー,弁護士を構成員とする「自賠責保険における高次脳機能障害認定システム 検討委員会」を設置し,同委員会は,平成23年3月4日付けの「自賠責保険における高次脳機能障害認定システ ムの充実について」と題する報告書(平成23年報告書)において,高次脳機能障害の認定に関する基本的な考え 方を,次のとおり整理している。     (ア) 脳外傷による高次脳機能障害の特徴      a 脳外傷(脳の器質的損傷を意味するもの)による高次脳機能障害は,記憶・記銘力障害,注意・集中力障害,遂 行機能障害等の認知障害や,周囲の状況に合わせた適切な行動ができない,複数のことを同時に処理できな いなどの行動障害,更に,受傷前には見られなかったような自発性低下,衝動性,易怒性等の人格変化を典型 的な症状とするものである。      b これらの症状は,主として脳外傷によるびまん性脳損傷を原因として発症するが,局在性脳損傷(脳挫傷,頭蓋 内血腫など)とのかかわりも否定できない。両者が併存する例もしばしば見られる。      c 症状の経過については,急性期には重篤な症状が発現していても,時間の経過と共に軽減傾向を示す場合が 殆どである。      d 上記aの症状が後遺した場合,社会生活への適応能力が低下することが問題である。社会生活適応能力の低 下は,就労や就学などの社会参加への制約をもたらすとともに,人間関係や生活管理などの日常生活活動にも 制限をもたらす。      e 脳外傷による高次脳機能障害は,種々の理由で見落とされやすい。例えば,急性期の合併外傷のために診察 医が高次脳機能障害の存在に気付かなかったり,家族・介護者が患者の意識の回復により他の症状もいずれ 回復すると考えていたり,被害者本人が自己洞察力の低下のため症状の存在を否定していたりする場合など があり得る。     (イ) 症状と障害の的確な把握       脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するに当たっては,意識障害の有無及びその程度・長さの 把握と,画像資料上で外傷後ほぼ3か月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の画像所見が重要な指標と なる。      a 脳外傷による高次脳機能障害は,意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴であり, 一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合,外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに 対し,二次性脳損傷では,頭蓋内血腫や脳腫脹・脳浮腫が増悪して途中から意識障害が深まるという特徴が ある。      b びまん性軸索損傷の場合,受傷直後の画像では正常に見えることもあるが,脳内に点状出血を生じていること が多く,脳室内出血やくも膜下出血を伴いやすい。受傷数日後には,しばしば硬膜下ないしくも膜下に脳脊髄液 貯留を生じ,その後代わって脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮が目立ってくる。およそ3か月程度で外傷後脳 室拡大は固定し,以後はあまり変化しない。局在性脳損傷が画像で目立つ場合でも,脳室拡大・脳萎縮の有無 や程度を把握することが重要である。      c 頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し,次第に軽減しながらその症状が残存したケースで,びまん性軸 索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には,脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が 認められる。        他方で,頭部への打撲などがあっても,それが脳への損傷を示唆するものではなく,その後通常の生活に戻 り,外傷から数か月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し,次第に増悪するなどしたケースにお いては,外傷とは無関係の疾病が発症した可能性が高いものといえ,画像検査を行って外傷後の器質的病変 が認められなければ,この可能性は更に支持されるものと考えられる。この可能性の中には非器質性精神障 害も含まれる。      d 脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な資料である。CTは,頭蓋骨骨折,外傷性クモ膜下出 血,脳腫脹,頭蓋内血腫,脳挫傷,気脳症などの病変を診断できるが,びまん性軸索損傷のように,広汎ではあ るが微細な脳損傷の場合,CTでは診断のための十分な情報を得難い。CTで所見を得られない患者で,頭蓋 内病変が疑われる場合には,受傷後早期にMRI(T2,T2*,FLAIRなど)を撮影することが望まれる。受傷後 2,3日以内にMRIの拡散強調画像DWIを撮影することができれば,微細な損傷を鋭敏に捉える可能性があ る。受傷から3,4週以上が経過した場合,重傷のびまん性軸索損傷では,脳萎縮が明らかになることがある が,脳萎縮が起きない場合にはDWIやFLAIRで捉えられていた微細な画像所見が消失することがある。した がって,この時期に初めてMRIを行った場合には,脳損傷が存在したことを診断できないこともある。        拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー,PETについては,それらのみでは,脳損傷の有無, 認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。        神経心理学的検査は,認知障害を評価するにはある程度適したものといえるが,行動障害及び人格変化を評 価するものではない。     (ウ) 後遺障害認定のあり方について      a 従前の審査においては,「脳外傷による高次脳機能障害は見落とされやすい」との前提のもと,審査対象の選 定の条件として,頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁,GCSが8点以 下)が少なくとも6時間以上,若しくは,健忘症又は軽度意識障害(JCSが2桁~1桁,GCSが13~14点)が 少なくとも1週間以上続いた症例であること,頭部画像上,初診時の脳外傷が明らかで,少なくとも3か月以内 に脳室拡大・脳萎縮が確認されること等の5条件を示していた。しかし,これをもって高次脳機能障害の判定基 準とするものではない。これらの条件は,条件に該当する被害者を調査の対象とするという趣旨で設けたもの であったが,現在では,上記の各条件に達しない被害者は高次脳機能障害ではないと形式的に判断されてい るおそれがあるのではないかとの指摘があった。      b そこで,後遺障害診断書において,高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診療医が高次脳機 能障害又は脳の器質的損傷の診断を行っている)場合は,全件で高次脳機能障害に関する調査を実施するこ ととし,後遺障害診断書において,高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない場合でも,次の① ~⑤の条件,すなわち,①初診時に頭部外傷の診断があり,経過の診断書において,高次脳機能障害,脳挫 傷(後遺症),びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷等の診断がなされている症例,②初診時に頭部外傷の診断 があり,経過の診断書において,認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状,あるいは失調性歩行,痙性 片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例,③経過の診断書において,初 診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例,④初診時に頭部外傷の診断があり,初診病院 の経過の診断書において,当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁,GCSが12 点以下)が少なくとも6時間以上,若しくは,健忘症又は軽度意識障害(JCSが1桁,GCSが13~14点)が少 なくとも1週間以上続いていることが確認できる症例,⑤その他,脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症 例のいずれかに該当する事案は,高次脳機能障害が見落とされている可能性が高いため,慎重に調査を行う こととした(以下,上記の調査対象とすべき事例の指標を「改訂自賠責調査基準」という。)。    イ 専門家が指摘する高次脳機能障害の特徴(甲28)      新東京病院神経放射線科のF医師は,脳外傷による高次脳機能障害の特徴としておおむね前記ア(ア)と同様の 症状等を指摘した上で,脳外傷による高次脳機能障害は,慢性固定期のみならず,意識障害から回復した直後の 急性期にも認められ,時間の経過とともに改善するが,その改善傾向は受傷後半年から1年の間にみられるもの であること,障害の程度(重度)は,統計的にみて受傷直後の意識障害の程度・期間や外傷後健忘症の期間と強く 関連すること,脳外傷による高次脳機能障害の診断には,次の3つの視点,すなわち,①急性期の意識障害の程 度と期間,②家族又は介護者が気付く日常の生活状況,③急性期から慢性期を通じての脳画像所見(特に脳室 拡大)が欠かせないこと等を指摘する。    ウ PET,SPECTと高次脳機能障害(甲24)      秋田県立脳血管研究センター神経内科のG医師は,PETやSPECTは,脳血流やエネルギー代謝,神経伝達物 質,受容体など,脳機能の変化を反映する画像診断法と位置づけられており,PETやSPECTによる機能的画像 診断によれば,X線,CT,MRIで描出されず,かつ,症状の形成や回復過程に影響を及ぼすと考えられる脳の機 能的障害を把握することができるとの見解を示している。    エ 意識障害の程度と後遺障害との関係(甲26)      意識障害の評価の方法として,目を開けているか,話すことができるか,手足を動かすことができるかを観察して 15点満点で評価するグラスゴー昏睡尺度(GCS)があり,急性期のGCSで3~8点は重度損傷,9~12点は中 等度損傷,13~15点は軽度損傷と分類される。予後との関連で,多くの研究結果が示されている。      GCS13点以上で意識障害が短時間の場合でも,急性期には約半数で高次脳機能障害がみられ,3か月までに ほぼ消失する経過をたどる。入院時のGCSが13点以上の例で,1年後にほぼ正常の生活を送っている例は63 パーセント,中程度の障害が残存している例は19パーセントとする調査結果がある。   (3) 原告についての医師の診断等    ア A医師の診断等(甲2,6,16・第43,69丁)     (ア) 佐々総合病院脳外科のA医師は,平成18年11月30日,Eに対し,原告の脳の左側に脳挫傷があること,し ゃべりにくさやけいれんが現れる可能性はあるが,その可能性は低いことを説明した。     (イ) A医師は,平成20年1月11日,木沢記念病院のH医師に宛てて作成した診療情報提供書において,原告に 関し,平成18年12月2日に退院となったが,その後,集中力の低下及びふらつきが出やすいなど外傷性頚椎症 候群の症状が遷延しているとの認識を示した。     (ウ) A医師は,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲2)及び「神経系統の障害に関する医学的意見」と 題する書面(甲6)において,原告には頭部外傷後高次脳機能障害による記憶障害,集中力及び注意力の低下, 遂行能力の低下等の後遺障害が残存し,すべての日常生活において家族の声かけと手助けを必要としていると の認識を示した。    イ B医師の診断等(甲31の1・2)      国立障害者リハビリテーション病院精神科のB医師は,平成23年3月3日から同年5月31日まで原告を診察した 上で,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲31の1)及び「神経系統の障害に関する医学的意見」と題す る書面(甲31の2)において,原告には外傷性脳損傷による重度の失見当識,記憶障害,注意障害,遂行機能障 害等の後遺障害が残存し,日常生活には常時援助を必要とし,単身で生活することや就労することは困難である との認識を示した。    ウ C教授の医学的意見(甲22の1・2)      帝京大学医学部付属病院脳神経外科のC教授は,前記(1)ア~オ(ただし,前記(1)ウ(ウ)を除く。)の各事実の ほか,平成23年8月31日に原告を問診した結果等を踏まえて,次のような認識を示している。     (ア) 原告には,言語による意思疎通の障害,記憶障害,失見当識,注意・集中力障害,理解力低下,判断力低 下,遂行機能障害,社会適応性の障害,感情面や性格の変化,病識の欠如などの症状がみられる。これらの症状 は,脳損傷による高次脳機能障害の症状と一致する。      画像所見からは,右側頭-後頭部から左前頭-側頭部に向かう外力が作用したと推定される。そして,この外力 が作用したと推定される線上にある右側頭葉,小脳,脳幹,視床,基底核,左前頭-側頭葉が障害された可能性 がある。原告の高次脳機能障害の症状と本件事故後の画像所見とは整合性があり,原告には,本件事故による 高次脳機能障害が認められる。     (イ) 原告の後遺障害の程度は,後遺障害等級表第一の第2級に相当するものと判断される。すなわち,原告の意 思疎通能力,問題解決能力,作業負荷に対する持続力・持久力,社会行動能力にはいずれも高度の障害が認め られ,その症状を総合すると,原告は,自宅内での日常生活動作は一応できるが,一人で外出することは困難で あり,外出の際には他人の介護を必要とするため,随時他人の介護を必要とする状況にあると認められる。    エ 医学博士I(以下「I博士」という。)の医学的意見(乙2)      I博士(J株式会社第一医療部)は,原告の本件事故後の症状等について,次のような見解を示している。     (ア) 原告に対して行われた神経心理学的検査の結果や,家族による日常生活状況の報告が原告の高次脳機能 障害の状態を正しく評価しているとすれば,原告の後遺障害は,随時又は常時介護を必要とする重度のものであ り,後遺障害等級表第一の第2級1号又は第1級1号に相当すると考えられる。       しかし,原告が本件訴訟で主張する後遺障害の程度(後遺障害等級表第二の第5級)は,上記の程度に至らな いものである。また,脳損傷によって上記のような重度の後遺障害が残存しているのであれば,頭部画像検査に おいて広範囲にわたる脳損傷や脳萎縮がみられ,急性期には数日以上に及ぶ昏睡状態の持続がみられるはず であるが,原告には,上記のような画像所見や意識障害はみられなかった。     (イ) 重度の後遺障害を残すような脳外傷の症例では,一般的に,急性期の意識障害から回復した後,徐々に麻 痺や認知障害が改善し,数か月から1年程度が経過した時点で症状固定に至るという臨床経過をたどる。       しかし,原告の初診時の頭部外傷の程度は軽傷といってよいものであり,看護師による意識レベルの評価は,初 回観察時を除き「クリア」とされていた。また,頭痛やめまいの症状も入院中に徐々に改善し,退院の前日にはい ずれも症状なしと評価されていた。退院後にこれらの自覚症状が悪化することもないとはいえないが,急性期の 症状ほど重篤になることは考えにくい。原告は,高次脳機能障害の症状が見過ごされやすいことを強調するが, 医療関係者が,急性期にみられるはずの著明な臨床所見を問題視しないはずはない。       原告にみられた症状の経過は,前述した一般的な経過とはまったく逆で,急性期の症状は乏しく,慢性期になって 症状が出現・増悪している。その原因としては,何らかの内因性疾患や心因性反応等を発症したことが考えられ る。     (ウ) 原告の症状は,平成19年11月ころに固定したと考えられる。それ以降の症状は,前述したとおり,本来の脳 損傷の回復過程とは別の病態によるものと考えられる。   (4) 検討-本件事故を原因とする高次脳機能障害の有無について    ア 本件における基本的な考え方      原告は,脳外傷による高次脳機能障害の有無を,①受傷直後の意識障害の有無ないし程度,②画像所見,③診 察した医師による具体的な所見,④家族の具体的な報告,⑤神経心理学的検査の結果等から判断すべき旨主張 するところ,その内容は,平成23年報告書が示す高次脳機能障害の調査対象とすべき症例の指標(前記(2)ア (イ),(ウ))及び医師が指摘する診断の視点(同(2)イ)とおおむね一致するものであるから,本件においては,上 記①~⑤の考慮要素に即して原告に本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存しているか否かを検討するこ ととする。    イ 受傷直後の意識障害の有無ないし程度について      前記(1)で認定したとおり,原告には,受傷当日である平成18年11月18日から遅くとも同月20日までの間,健 忘を中心とする軽度の意識障害があったことが認められる(前記(1)イ(ア))。      上記の意識障害の程度は,改訂自賠責調査基準で示された意識障害の水準には達しないものである。      しかし,同基準は,高次脳機能障害の判定基準そのものではなく(前記(2)ア(ウ)),同基準においても,重度の 意識障害が6時間以上継続したこと若しくは健忘又は軽度意識障害が1週間以上継続したことは,脳外傷による 高次脳機能障害を疑うべき症例の指標の一つにすぎないものと位置づけられている(前同)。また,受傷直後の意 識障害が軽度であった事例においても,1年後に中程度の障害が残存した例は19パーセントあるとの調査結果 がある(前記(2)エ)。これらの事実を考慮すると,原告にみられた意識障害が重度のものではなく,かつ,1週間 以上継続するものでなかったとしても,そのことをもって,原告が本件事故により高次脳機能障害の原因となる脳 外傷を負わなかったということはできない。    ウ 画像所見について      前記(1)で認定したとおり,①本件事故発生の日に行われた頭部X線検査において,原告の右側頭部に線状骨折 が認められたこと(前記(1)エ(ア)),②同日に行われた頭部CT検査において,左側頭葉の先端部に出血を疑わ せる所見が認められ,その後のCT検査及びMRI検査において,原告の頭部の左側に脳挫傷痕が認められている こと(同(イ),(ウ)),③本件事故発生の日から5か月以上が経過した後の検査画像においては,軽度の脳室の拡 大及び局所的な脳萎縮が認められること(前記(1)エ(イ)b,c,同(ウ)b)に加えて,④平成20年2月1日に行わ れたPET及びSPECTの結果,脳の機能低下を示す糖代謝低下や脳血流の低下が広範囲に認められたこと(前 記(1)エ(エ))を併せ考慮すると,原告の脳実質は,本件事故により広範囲にわたって損傷を受けたものと推認さ れる。以上の事実は,原告が本件事故によりびまん性脳損傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆するもの である。    エ 診察した医師による具体的な所見について     (ア) 前記(3)で認定したとおり,A医師,B医師及びC教授は,自ら原告を診察した結果等に基づき,原告に脳損 傷を原因とする記憶障害,注意障害及び遂行機能障害等が存するとの見解を示している(前記(3)ア~ウ)。     (イ) これに対し,I博士は,A医師らが上記見解の前提とする家族の日常生活報告は,原告が本件訴訟において 主張する後遺障害の内容と整合しないことなどを指摘する(前記(3)エ(ア))。       確かに,A医師らが前提としたDによる原告の生活状況報告(甲7,32)において,誇張又は事実に対する客観 的評価とは異なるDの主観的な評価が含まれている可能性は否定することができない。しかし,上記報告には, 原告の発語が緩慢で意思疎通能力が低下していること,原告に記憶障害が生じていること,原告が病識を欠い ていることが一貫して述べられているところ,原告についてそのような状況がみられることは,当裁判所の本人 尋問における原告の言動(前記(1)ウ(ウ))からみても,首肯することができる。したがって,I博士の上記指摘を 考慮しても,A医師らの見解が誤った事実を前提にしているとまではいえない。    オ 家族の具体的な報告について      D及びEの供述(甲7,32,43~45,証人D,証人E)等によれば,前記(1)ウ(イ)bの限度で,婚姻後における原 告の言動等を認めることができる。      これに,本件事故前における原告の生活歴等(前記(1)ア)を併せ考慮すると,原告には,本件事故の後,発語能 力ないし意思疎通能力の低下,記憶力及び遂行能力の障害,易怒性及び無関心,病態に対する無自覚等がみら れるようになったということができる。これらの変化は,認知障害,行動障害及び人格変化と評価することができる ものであり,いずれも前記のとおり認められる高次脳機能障害の特徴(前記(2)ア(ア),イ)と合致する。    カ 神経心理学的検査の結果について     (ア) 原告に対して行われた神経心理学的検査の結果(前記(1)オ)は,いずれも,本件事故後において,原告の 認知能力が標準を下回る程度の水準にあることを示すものである。     (イ) I博士は,原告に対して行われた神経心理学的検査の結果は,原告が本件訴訟において主張する後遺障害 の内容と整合しないことを指摘する(前記(3)エ(ア))。      確かに,当裁判所の本人尋問における原告の言動をみる限り,前記(1)オのWAIS-Ⅲの結果には疑問がない ではない。しかし,原告の発語能力及び意思疎通能力に問題があることは前記認定のとおりであり,原告の認知 能力に障害が生じていることは疑いなく認められるところであるから,上記神経心理学的検査の結果をまったく信 用できないものとして捨象することはできない。    キ 原告の症状の経過について     (ア) 前記(1)で認定したとおり,①原告には,佐々総合病院に入院していた間,発語が緩慢である,浴室以外の 場所で洗髪しようとする,問診票に不可解な記述をするなどの言動がみられたこと(前記(1)イ(イ)),②原告は, 退院後においても,婚姻後の転居先について事実と異なることを述べていたこと(前記(1)ウ(ア)),③Dは,出産 後,原告の通院に付き添うことができるようになってすぐに,佐々総合病院のA医師に対し,病識がないため自己の 状態を正確に伝えることができない原告に代わって,原告の記憶力及び集中力の低下を訴えたこと(前記(1)ウ (イ)a)を考慮すると,原告には,本件事故で受傷した当初から,脳損傷による記憶障害等の症状が現れていたと認 めるのが相当である。     (イ) 被告の主張について       被告は,本件事故直後の急性期において,原告に高次脳機能障害の原因となるべき脳損傷があることを疑わせ るような状況は存しなかったことを主張する。そこで,被告の主張の根拠となり得べき事実等について,以下補足し て検討する。      a A医師の認識について        A医師は,平成20年1月ころまで,原告に脳損傷を原因とする記憶障害,注意障害及び遂行機能障害等があ るとの認識は有していなかったことがうかがわれる(前記(3)ア(ア),(イ))。        しかし,A医師が最終的には原告に高次脳機能障害が残存するとの認識を有するに至っていること(前記(3) ア(ウ)),その前から,原告に集中力の低下等の症状がみられるとの認識を有していたこと(同(3)ア(イ))を 考慮すると,A医師が,当初,原告について高次脳機能障害があるとの認識を有していなかったからといって, 原告に,本件事故の直後から脳損傷による記憶障害等の症状が現れていなかったとみることはできない。      b 原告が佐々総合病院に入院していた間の診療録等の記載について        原告が佐々総合病院に入院していた間の診療録等(甲16)には,脳損傷に起因する症状とみるべき具体的な 事実はほとんど記載されていない。        しかし,急性期の合併外傷のために診察医が高次脳機能障害の存在に気付かないことはあるというのであり (前記(2)ア(ア)e),A医師も,当初は高次脳機能障害を念頭に置いた診察をしていなかったことがうかがわれ ること(前記(3)ア(ア),(イ))を考慮すると,上記の診療録等の内容をもって,直ちに佐々総合病院入院中に 原告に脳損傷による記憶障害等の症状が現れていなかったとみることはできない。      c 原告が一人で通院していたことについて        原告は,佐々総合病院を退院した後,家族が呼んだタクシーを使って一人で通院したことがあることが認めら れる(前記(1)ウ(ア),(イ)a)。        しかし,原告は,公共交通機関を利用して通院していたのではないし,原告が一人で通院することができたの は,家族と一緒に何回か通院した結果,特定の病院へのタクシーによる通院には慣れたことによるものと考え られる。また,原告が移動先で運転手や医療機関の関係者の介助を受けていた可能性も否定できないから, 原告が家族が呼んだタクシーを使って一人で通院していたという事実をもって,原告に脳損傷に起因する記憶 障害等の症状が現れていなかったとみることはできない。     (ウ) 以上によれば,原告には,本件事故で受傷した当初から,脳損傷による記憶障害等の症状が現れていたと認 めるのが相当である。    ク 結論      以上のとおり,原告の本件事故による受傷直後の意識障害の程度は軽度であり,その持続時間も短いものであっ たが(上記イ),原告には,本件事故による受傷当初から,記憶障害等の高次脳機能障害に特徴的な症状が現れ ていたと認められ(上記オ,キ),本件事故により,原告の脳実質が広範囲にわたって損傷を受け,びまん性脳損 傷ないしびまん性軸索損傷を負ったことを示唆する画像所見等が存在するとともに(上記ウ),本件事故後に原告 の認知能力が標準を下回る水準にあることを示す神経心理学的検査の結果が存在し(上記カ),原告を診察した 複数の医師が原告に高次脳機能障害が残存しているとの見解を示していること(上記エ)を総合考慮すると,原告 には,典型的な症例でみられるほどの明確な客観的所見を伴うものではないものの,本件事故による脳損傷を原 因として高次脳機能障害が残存したと認められる。      なお,症状固定日は,証拠(甲2)により平成20年2月22日と認めるのが相当である。被告は,一般的な脳損傷 の臨床経過は受傷後12か月で症状固定となるのが通常であると主張するが,本件において,一般的な臨床経過 のみを理由に本件事故から1年後の平成19年11月ころに症状固定に至ったと認めることはできない。   (5) 検討-後遺障害の程度について     原告には,ふらつきやめまいの症状がみられる(前記第2の2(4),(5))ほか,前記2で認定したとおり,発語が緩 慢で,同じやりとりを繰り返さないと意思疎通ができないことがある(前記(1)ウb(a)),記憶力に障害があり,一人 での帰宅や公共交通機関の利用はできない(同(b)),怒りやすい一方で,物事に対する関心が薄い(同(c))などの 後遺障害がみられる。そして,複数の医師が,原告を診察した結果等を踏まえて,少なくとも原告が一人で就労する ことは困難であるとの見解を示していること(前記(3)ア~ウ),平成24年7月から始めた店舗における作業も皿洗 い等の単純作業に限られていること(同ウ(イ)a)を併せ考慮すると,原告が一人で通常の労務に服することはでき ないというべきであり,原告は,本件事故を原因とする高次脳機能障害が残存しているため,他人の介助又は指示 の下で軽易な労務に服するか,一人できわめて軽易な労務に服することができるにとどまるというべきである。     したがって,原告は,本件事故により,単独での就労がきわめて軽易な労務に制限される程度の後遺障害を負った というべきであり,その程度は,後遺障害等級表でいえば,同表第二の第5級2号に相当するものというべきであ る。

 

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